5分でふわっと理解出来る「シュレーディンガーの猫」
シュレーディンガーの猫は量子力学を学ぶ上で最も初歩的な問いかけの思考実験です。
そのためシュレーディンガーの猫を知ることで、量子力学というものが一体全体どういう学問なのか、更にいうと主役になる量子がどんな性質であるのかということが見えてきます。
恐らくこの先私達が普段使用しているノイマン型PCに成り代わる量子コンピュータを扱う上で必須知識になるはずなので、簡単ですが概要だけは知っておくのも良いかもしれません。
というわけで中々学ぶ機会が少ないシュレーディンガーの猫を5分程度でふわっと説明してみます。
シュレーディンガーの猫は観測時に収束する「コペンハーゲン解釈」の問いかけ
シュレーディンガーの猫という思考実験のふわっとした概要は「ミクロの挙動がマクロにどう影響するのか」です。
これをわかりやすくするためにシュレーディンガーという理系の方なら誰もが知っている超偉い方が考えたもので、猫を用いてある思考的な実験を行います。
*一部分かりやすいように本来の実験内容と異なる記述あり。
実験内容はこう
実験の内容は至ってシンプルで、ある「ブラックボックス」の中に放射線を放出する「放射性物質(画像では①)」と、放射線を検出する「検出器(画像では②)」(いわゆるガイガーカウンター)、そしてその検出器が作動した時に毒ガスを発生させる「毒ガス発生装置(画像では③)」を取り付け、その中に猫を入れます。
ブラックボックスなので外部からは全く中の様子が見えない仕組みになっていて、蓋を閉めた時から中にいる猫は、放射性物質から放射線が放出する or まだ放出しないという状況下におかれます。
一旦ブラックボックスの蓋を閉めてしまうと、実際に放射線が放出しているか否かは外部からは全く検討することが出来ない状態です。
閉めて直ぐ放出される可能性もありますし、24時間後、1年後の可能性もあります。ただ実験をやりやすくするために、1時間以内に放射線が放出される可能性が50%のラジウムを放射性物質に用いるとします。
もし仮に放出すれば確実に検出器は放射線を検出し、そして毒ガス発生装置が作動し、ブラックボックスの中は毒ガスで充満します。勿論猫もものの数秒で生きていられなくなるでしょう。
さてここで問題です。
「蓋を閉めて1時間が経った時、猫は生きているでしょうか?それとも死んでいるでしょうか?」
以上がシュレーディンガーの猫の思考実験になります。
普通なら生死のどちらか一択を選択するはずだけど…
恐らく多くの方が1時間後に
生きている!or 死んでいる!
と、どちらか一方を選択して答えるでしょうが、実は量子力学ではどちらか一方にならない、日常生活ではちょっと理解しづらい事が起こります。
1時間で放射線が放射される可能性が50%なので、1/2の確率でどちらか一方を選択するというのが普通の私達の考え方です。
では一体全体シュレーディンガーの猫ではどんな事が起こるのかというのを説明してみましょう。
ここからふわっと説明開始!!
まずこのシュレーディンガーの猫の実験では、放射線を発生させる放射性物質が猫の生死に直結しているというのが大きなポイントになります。
放射性物質から放射線が放出されなければ毒ガスは発生しませんし、一時間後に猫は生きてブラックボックスから脱出することが出来るでしょう。
まずは粒子の性質について知ろう!
シュレーディンガーの猫の思考実験では放射線物質にラジウムを用います。
ラジウムなどウラン系列の元素は、陽子と中性子から成るα粒子が原子核内の核力をトンネル効果によって飛び出す時に、α崩壊を起こします。
α崩壊は簡単に言うと核分裂反応で、この時勢い良く飛び出したα粒子が放射線として放出されます。
このα粒子がガイガーカウンターに検出され、毒ガスが発生するという仕組みがブラックボックスでは起こりますが、α粒子は名前の通り粒子です。
粒子はご存知の通りミクロの物質です。ミクロの物質は目に見ることができないためどういった動きをするのか長い間分からずにいました。
しかし20世紀に入り量子力学が登場してくるとこのミクロの物質は奇妙な動きをするということが数々の実験で明らかになってきました。
例えば二重スリット実験では、粒子はそのまんまの粒子でもあるし、波でもあるという一般的な考えでは説明がつかない実験結果が観測されました。
つまりミクロの物質である粒子は、粒子でもあるし、波でもある、この2つの特徴が重なった状態であるわけです。
粒子の挙動を扱う量子力学では、様々な現象はある可能性が重なりあった状態という説明を用います。この解釈の仕方をコペンハーゲン解釈と呼び、全ての現象は観測者が観測した瞬間に結果が決まるという量子力学の最も標準的な理解の仕方になります。
これを踏まえた上でシュレーディンガーの猫の実験に戻ると、先程まで猫の生死がどちらか一方の答え(1/2)の確率だったものが、ちょっと違ったように捉えることが出来ます。
「1/2」は量子力学では「1:1」と考えられる
1時間後にα粒子がラジウムから放出される可能性は50%としましたが、では1時間後にラジウムが本当にα粒子を放出したのか否かは、放出した可能性と放出しなかった可能性の1:1と考えることが出来ます。
つまり1:1ということは放出した状態と、放出しなかった状態が重なりあっている状態(2つの可能性が同程度ある状況)になるのが分かります。
1時間後に粒子は「放出もしたし、放出もしなかった」こういった相反する可能性の重なりあった状態になるわけです。
これを元に猫の生死を考えると「猫は毒ガスで死んでしまったし、死ななかったし」に繋がります。
にわかに日常生活の理解からは信じられないですが、1時間後のブラックボックスの中では、生きた猫と、死んだ猫の2つの状態が雲のように重なりあっているわけです。
そしてこの重なりあいがどちらか一方(1/2)に収束する瞬間が、ブラックボックスの蓋を開けて観測者が観測した時なわけです。
どうでしょうか?これがシュレーディンガーの猫の思考実験の全体像になります。
なるほど!と思った方もいれば、納得出来ないという方、また私の説明下手で意味わからんという方もいるでしょう。
結果的にはどちらか一方の結果が必ず観測されるわけですが、それまでは猫が死んでいるという結果と、生きているという結果は重なっている状態で定まっていません。「蓋を開ける瞬間までは猫の生死は決まらない」、つまるところ観測者が観測しない限り猫の生死は定まらないというわけですね。
コペンハーゲン解釈意外の解釈方法も沢山有る
この思考実験を考えたシュレーディンガーは、実は量子力学スタンダードな考え方のコペンハーゲン解釈をミクロからマクロへ繋げると(シュレーディンガーの猫の思考実験の事で、粒子が猫の生死に直結させると)猫の生死が重なりあう不可解な状態になるよ!どうなのこれ?と問題定義するためにこの思考実験を考えたとされています。
コペンハーゲン解釈は今でも量子力学では比較的広く一般に学ばれている解釈法の1つです。ただシュレーディンガーの猫の思考実験が発表されてからは実はコペンハーゲン解釈は間違っているのではないか?また不完全なのではないか?と考える方も登場し、これまで様々な学者によって様々な解釈法が登場してきました。
例えばコペンハーゲン解釈派と対立する事で有名な解釈に、「エヴェレット解釈」があります。
エヴェレット解釈は更に一般人の理解を超える
エヴェレット解釈はまたの名をエヴェレットの多世界解釈とも言い、全ての現象は観測後に観測前に可能性があった分、多世界へ分岐するというものです。
これを簡単に説明すると、サイコロを振った時の目が1という観測がされた場合、可能性があった2から6までの目が出た世界と今1が観測された世界と瞬時に分岐してしまうということになります。
サイコロを振るという動作をする事によって、振る前にあった6つの可能性の世界をただ1つ選んだということですね。
もっと分かりやすく言うならパラレルワールドがエヴェレット解釈です。よくSFに登場するのでコチラの方がイメージしやすいでしょう。
観測で世界が分岐する!?
シュレーディンガーの猫をエヴェレット解釈に当てはめると、生きた猫と死んだ猫は蓋を開けて観測した瞬間に、どちらか一方の可能性の世界が分岐し、分岐した世界と、分岐しなかった世界が平行して存在することになります。
これはなにも猫だけでなく、生きた猫を観測した観測者と、死んだ猫を観測した観測者でも分岐します。
死んだという事が事実になり進んでいく世界と、無事に脱出来た猫を観測した事が事実の世界の2つの異なる事実を持った世界に分かれるわけですね。観測者を含め、多世界へ分岐したこと自体は別の視点からその事自体を観測できないため、知ることは出来ないとされています。
なんだかSFの世界のようになってきましたが、量子力学は宗教でもなければSF映画でもありません。実際に考えられうる事で今もなお議論が交わされています。
面白いですよね!量子力学!